躊躇しながらも、暗闇に目も慣れたところでよくよく磯の先端を見ていると、どうやら長い磯の左端だけは、波を被っていないことが分かりました。
あそこならなんとか出来そう。
そこは、雑誌でもクロダイやメジナなど磯魚のポイントとして紹介されていたのでちょうどよい。
早速荷物を運び込みます。
恐る恐るスロープを登り先端から海を照らしてみると、磯の真ん中辺りから向こう側右方面は、暗闇でも分かるほどの洗濯機状態。時々ドドーンと、波が切り立った磯に当たっては、磯の上にドシャーンと降りかかっています。
なんと恐ろしい光景でしょうか。
気にはなりますが、コマセをバッカンにタップリ作って、これくらい海が荒れていたら、ひょっとしたら大物が釣れたりするかもしれない、などと妄想を膨らませます。
さて、コマセの準備ができたところで、磯の先端にバッカン、水汲みバケツ、クーラーボックス、そして竿ケースを運びます。よし、仕掛けを準備するか。
その時でした。
ドドーン
真っ暗で、一瞬、何が起こったのか分かりませんでしたが、次の瞬間目の前に暗闇でも分かるくらい真っ白く砕けた波が壁のようになって跳ね上がりました。
ヤバい!
そしてその次の瞬間、ババーン、メラメラメラ、波が真上から打ち付けてきました。磯に当たって跳ねあげた波が降ってきたのです。
何も考える暇も、自分の身を守る余裕もありません。上から打ち付ける波に足元をすくわれ、自分の身体がスロープを滑り落ちます。なにしろ磯の左端なので、方向によっては、そのまま海に流し込まれそうです。
私は、必死で磯の突起部分にしがみついて、耐えました。
なんとか降り掛かってきた全ての波が流れて行ったところで、急いで安全なところまで這うように逃げ避難しました。けれど、懐中電灯で照らして探しますが、苦労して運び込んだバッカン、水汲みバケツ、クーラーボックス、竿ケースが見当たりません。
安全な磯の左端まで行って海を照らすと、なんと無残にも全て海の中に浮いています。そこにも白いサラシが出来ていて、回収なんて絶対危険すぎるため、諦めるしかありません。
全身ビショビショになって車に戻り、万が一のために常備していたバスタオルで全身を拭き、予備の衣服に着替え、やっと運転席に落ち着きましたが、寒さではなく、恐怖で震えが止まりませんでした。
みなさんは私みたいなバカなことはやられないとは思いますが、荒れた海には絶対に近付かないで下さいね。命は意外に簡単に落としてしまう可能性があります。
その数年後、同じ白間津の磯で釣り人の死亡事故があったそうです。
ちなみに、震えが治まり冷静さを取り戻した私は、夜が明けてから地元の釣具屋で、乾かした千円札数枚で、エサと一番安い釣竿を買って、乙浜港の安全な堤防で竿を出しておりました。
我ながら、釣りバカ以前の大バカだと思いながら。(笑)